鏡也 一体、何時からそこに居たのか?男は物音一つ立てずにドアを開け、椅子に座っていた。 鏡也 音があるはずも無い。それどころか実体すら有り得ないのだろう。 鏡也 何時の頃からか、男は己が鏡像と実体の区別すら必要としなくなっていたのだから。 鏡也 「さて、マスター。今日は・・・そうだな。オレンジペコだ。ミントの葉を添えて」 鏡也 (ふん・・・所詮魔獣は『敵』か。完全悪などと言う都合のいいものを想像していたわけでもないが・・・) 鏡也 落胆のため息をつきながら紅茶を口に含む。 鏡也 (構成する材料も、構成そのものも・・・やはりこの世界に関しては私の役には立たん) 鏡也 「・・・私にとってまるで存在価値が無い、か」 鏡也 「ククッ・・・彼女が聞いたらどう思うか。楽しみではあるが、ね」 鏡也 物憂げな表情でありつつも笑顔にも見える複雑な顔。そして、やはりと言うべきか、混沌とした空間に感じるのはただ一つの『狂気』だった。 鏡也 (さて、仕事は一段落。今後の為の準備もある程度まで進めてはいる・・・となるとやはり『暇つぶし』がしたいものだが) 鏡也 周りを見まわしても、誰も居ない。彼の『暇つぶし』は適度な相手が居なければ成立しない類のものだ。 鏡也 (まいったな・・・ここならば一人位は相手が見つかるかと思ったのだが・・・) 鏡也 (まあ、良い。たまにはこんなのも良いだろう) 鏡也 「それにしても、『トリスタン』か・・・彼も洒落た名をつけるものだ」 鏡也 「もっとも、『マーリン』も『円卓の騎士団』も洒落た名にはかわりないか・・・」呟きながら紅茶を飲む。 鏡也 (本名だとしても、別にまったく疑問を挟む余地も無いがな) 鏡也 (・・・本名、か)と、遥か昔に捨てた原初の名を思い出そうとしてみる。 鏡也 (レイム、キリト、カーズ・・・ふん。今の名に比べてもあまり見栄えはせんな) 鏡也 「所詮は借り物、か・・・いつか、返してもらおうとも思っていたのだが、君に会うのはまだ先のようだ」珍しく感傷に浸っている。 鏡也 (・・・人は、貴方が思う以上に傲慢で、残酷で。それでも君は信じるのか?いや、信じたのか?結局君は私に殺されたと言うのに)何やらぶつぶつと自分の中の誰かに話しかけている。 鏡也 「それとも・・・君が私を殺したのか?それはそれでこの上なく愉快な事なのだが」意味不明な事を口走る。追憶は狂気とともに・・・(謎) 鏡也 (死が全てに等しい?違うな。生が全てに等しいのだ。生と死は同義ではないが、対でしか存在し得ず・・・) 鏡也 (・・・待て。生と死が対となるならば、ある意味世界の死をもたらす魔獣とは・・・?)危険な思考に突入し始める。 鏡也 (いや、人が世界を殺す事と魔獣が世界を殺す事では大きな違いが・・・) 鏡也 (違う?そうではない。人が世界を殺さなかったら?殺させなかったのならばどうなる?) 鏡也 (しかし、そうなると彼の力の意味はどうなる?私を含めた騎士たちの力は?・・・それですらも、歪められたとでも言うのか?) 真一 (カランコロン)「こんば……」 真一 (ぎゃふん……) 鏡也 ギンッと凄まじい視線を店の入り口、ひいては真一君の方へ向ける。 真一 ドアを開けきったあたりで硬直 真一 「……」ぎく、しゃくと周りを見回す 鏡也 (・・・真一君か。しばらくは様子見だな)何気ない風を装いマスターに紅茶のお代わりを頼む。 真一 (どうする……帰ろうとすれば帰れるんだぞ……) 真一 苦悩中。ドアは開きっぱなし。 鏡也 「ふむ・・・いい香りだ。なかなかいい腕をしているね、マスター。お礼に客の呼びこみでも手伝おう。さあ、真一君、来たまえ」最後の文節に異常な迫力を持たせて呼びかけます。 真一 (あんたが外に呼び込みに行ってくれるなら喜んで入るぜ?俺は。)悪態を突きたいところである。 真一 「はぁぁぁぁ…………」観念。端っこに行く。 鏡也 「ほう・・・いい目だ。もっとも、その視線を私に向けて無事だった者は・・・」と言いよどむ。 鏡也 (『暇潰し』か『思考』か・・・さて、どちらを選ぶ?)と自分に問いかけながらも、その表情が全てを物語っていた。つまり、邪笑で。(爆) 真一 (シテナイシテナイ、ボク、イイメシテナイ……) 鏡也 「ところで真一君。人伝に聞いたんだが、本当の事かな?」 真一 (何聞かれんだ……) 鏡也 「君が、同類を、殺した、とね」くくっと楽しそうな笑い。 真一 「はぁ……そのことね……。」 真一 「ホントですよ?」笑みを形作って 鏡也 「ああ、そうか。残念・・・そう、非常に残念だ」大げさに嘆いて見せる。 真一 「そいつぁどうも……。コーヒーを。」 鏡也 「とうとう君が純真な少年時代を終わらせてしまったのかと思うと、ね。本当に、残念だ」最後、本当にほんの少しだけですが本音が見え隠れ。 真一 ちびちびと、あまり旨くなさそうにコーヒーを飲む 鏡也 「で、感想を聞かせてもらいたいんだが。笑顔で答えてくれるのだろう?・・・君ならば」 真一 「俺はもう二年前に死んだようなもんですから。」笑顔 鏡也 「ほう、2年前?」興味深そうに。 真一 「死人が罪人にもなった。それだけです。」 鏡也 「死んだようなもの、か。死んでいない者がよく口にする言葉だ」 真一 「ほら、楽でしょ。そう考えると。」 真一 「『だから死んでも構わないか』と聞かれりゃそうでもないんですけどね。」 鏡也 「成る程ね。確かに、ある限定的な意味においては楽になったように見える事もあるかもしれんな」 鏡也 「・・・見ていてかなり腹立たしいが、ね」 真一 「あちゃちゃ。」 真一 「『死』をあまくみるな?」 鏡也 「そうだな。あまり『死』を侮辱しない方がいい」 真一 「しっかしなぁ……」 真一 「俺は『生きて』いい自信がないんでね。」 鏡也 「生きる自信?・・・くっ、くくくっ、ははははっ」爆笑する。 真一 「うけたうけた。」こう呟くくらいしかできない 鏡也 「自信、理由、そんなものか?君が悩むのはその程度なのか飯島真一!!?」いきなり胸倉をつかみ引き寄せます。 真一 読み切ってかわします。体力はこっちの方が上のハズ。 真一 人とふれあうのは自分に禁じているので。 鏡也 「ほう・・・まだその程度は出来るか。だがな・・・」引き寄せるのをあきらめるが、今度は逆に近づきます。触れ合わない程度に。 真一 「『その程度』と言われちゃうと返す言葉もございませんね。」 鏡也 「ああ、そうだな。君は返さないでいい。ここから先は私の意見であり、君の意見がさしはさむ余地は一切無い!」 真一 「ほう……」 真一 「どうぞ?」 鏡也 「生きていい自信が無い?くだらん。自信があろうと無かろうと、生きているものは生きている。死んだようなもの?だからどうした。所詮例えに過ぎん。君が先ほどからまるで悩んでいるかのように話している事はすでに答えが出ている。だから私はこう言おう・・・」 鏡也 「甘ったれるな小僧!ガキが自分の戯言に踊らされてどうする?そんなに頭が悪いとは思わなかったぞ、飯島真一!」 真一 「クックックッ……」笑い出す 鏡也 (さて、どうでる?反応次第では・・・) 真一 「キャラ変わってますね……。」 鏡也 (・・・・・・)観察〜 真一 「口で敵うたぁ思ってませんがね……」 真一 「一応言わせてもらいますよ……。」 真一 「戯れ言だ!?冗談じゃねぇ変態野郎!悩んで何が悪い!?人間考えんのやめたら終わりなんだよ!もう『正義の味方』はなくなった!堕ちんのも俺はイヤだ!これを悩まずどうしろってんだよ!?」 鏡也 「ほう、君は『何処』の正義の味方のつもりだったんだい?人間?自然?それとも神か?」 真一 「『一般常識』ですよ。」無理矢理笑う 鏡也 「ほう・・・一般常識ね。では君は正義の味方だったことなど一度も無いな」 真一 「所詮、社会の正義は多数決。一個の正義は『教育の結果』あんたにとっちゃくだらんでしょうが、残念ながら俺は『社会』と『教育』でできたんでね。」 真一 「さあね。残念ながら『常識』だって理解し切れちゃいないんだ。」 鏡也 「違うよ・・・君が力を持つ限り、正義にはなりえない。それが『人の」 鏡也 「・・・正義だ」 鏡也 「所詮絶対的な正義など幻想に過ぎん。誰かの正義は誰かの悪。『社会』でも少し考えれば解るはずだが?」 真一 「その少ない『誰か』は『悪』です。社会に於いては。」 鏡也 「そう、力を持つ者は少ない。故に『悪』だ。君の言い方を借りるならばね」 真一 「俺が言ってるのは『体質』でも『性質』でもない。『思想』だ。」 真一 「そして今のところ、『強さ=悪』という思想は完全多数にはなっていない。」 鏡也 「思想!ああ、これほどばかばかしい言葉も珍しい!まだ共通幻想と称した方がしっくりくるよ」 真一 「社会の『悪』は上回る力を持った『正義』に押さえられる。そういう社会でしょ?」 真一 「人間から『幻想』をとったらほとんど何も残らない。」 真一 「『客観的事実』だって幻想じゃない物の方が少ないんだろうから。」 鏡也 「・・・一つ、言い忘れていた事がある。思想として『強さ=悪』では無いかもしれない。が、『正義とされる力を超えるもの』は悪と思われるよ。おそらく、ほぼ確実にね」 真一 「そのときはそのとき。」力を抜く 鏡也 「そう、例えるならば『魔女狩り』の時のように」少し遠い目 真一 「社会の『正義』に従っておとなしく屈服するか、自分の『正義』や『欲求』で抵抗するか。」 真一 「そんなときが来たら考えますよ。」 鏡也 「・・・まあ、少し安心したよ。まだまだ君には余裕があるようだ」くすり、と笑うと、鏡也の背後にいた鏡也が何事も無かったかのように立ちあがり歩き出す。 真一 (?) 真一 「はぁ………疲れた……」 真一 「じゃ、ご馳走様でした。」 真一 出ていきます。 鏡也 「真一君。一つだけ憶えておきたまえ。所詮死は死以外の何者でもなく、何者になる事も出来ず。ただそこにあるのは安楽ではなく永遠の黒だ」一人目が出て行くと次の瞬間もう一人も消えます。