__陶信 からり、からり、と下駄の音がする。/ __陶信 碧がかった青い着物(甚平のような薄いもの)姿の老人が扉を開ける。/ __陶信 洋風な店の雰囲気を視ると、少し顔をしかめたが、しかめ面を多少緩め、通路に立つ。/ _T2_陶信 ふぅぅぅぅ・・・・と、静かに息を吐く。/ _T2_陶信 比較的穏やかな顔になるとポツリと呟く。/ _T2_陶信 「だれもおらんのか。」/ _T2_陶信 「・・・・ふむ、人を老いぼれとみるで無いわ。」お座りください・・・などとマスターに言われたらしい。/ _T2_陶信 などと言いながらも座る。/ _5_陶信 「五目。」注文、だれがなんと言おうと。/ _5_陶信 出てきた五目ごはんを、黙って一口食べる。/ _5_陶信 色々と気に入らないらしく、食べれば食べるほどしかめ面が険しくなってゆく。/ _5_陶信 食べ終わると、コトリと茶碗をおき、目を瞑り静止。/ _5_陶信 少しずつ、少しずつ店内に満ちてきた山の空気が、ふわっと広がる。/ _5_陶信 傍らから布袋をとり、マスターに渡す。/ _5_陶信 何も言わずに差し出された袋の中に入っていたのは野菜。/ _5_陶信 それなりの量が入っている、1週間は持つだろう。/ _5_陶信 マスターに礼を言われ・・・るが、黙って軽くシカト状態のジジィ。/ _5_陶信 ふと場の空気が凍る。/ _5_陶信 誰にも聞こえない言葉を翁が紡ぐ。/ _5_陶信 『月も、星も、空も、木も、山も、何も見えぬ町よ。人は人を省みぬ、人は心を省みぬ、人はこの世を省みぬ。貴様らの目には何が映っておるというのか・・・。』/ _5_陶信 終始無音。/ _5_陶信 空気が、元の洒落たBARの空気に戻ったとき、老人はそこに居なかった。/ _5_陶信 ただ、遠くにある空が。 いや、星空が、一瞬マスターのめがねに映りこんだようだった。/