有希 「こんばんは」 有希 夏を感じさせる白基調のワンピースを着こなし、髪を結い上げた姿で入店。 有希 「最近は夜でも蒸し暑くなってきたわね」 有希 空調の効いた店内がありがたい、と言わんばかりに手で扇ぐ仕草をしつつ。 有希 「あ、今日はまだ誰も来てないの? ―そう、ちょっと残念ね。」 yu- -> _5_yu- _5_有希 席に着く。「まぁ、こうして美味しいお酒を飲ませてもらって、ゆっくりマスターに話を聞いてもらえるだけでもありがたいわ。 残念なんて言うのは贅沢ね」 _5_有希 「―ということで、ウィスキーをロックで。」 _5_有希 微笑んで肘をカウンターにつき、ドリンクをつくる作業音と静かなBGMを楽しむ/ _5_有希 ウィスキーを一口飲んだ後は、暫くロックグラスを揺らし。 _5_有希 からから、と鳴る音を心地良い、と感じる。 _5_有希 ふと、カウンターに置いている左手を見る _5_有希 白く、艶やかな肌。綺麗に切り揃えられた爪にはマニキュアの類は付けられていないが、血色が良く。 _5_有希 別段、普通である。 _5_有希 ―数日前にすっぱり指が切断されたという事実さえなければ。 _5_有希 つい先日、魔獣の攻撃を受け、失ったはずの指は綺麗に戻っている。 _5_有希 それどころか、胸部にも深々と包丁を突き立てられて出来た傷も、今は全く見当たらない。あれは致命傷だった、一時的に気を失う程度で済んだのが不思議なほどなのに。 _5_有希 「ありがたい、といえばそうなんだけど、素直に喜べないよなぁ、コレは」 苦笑して呟く/ _5_有希 ムツキから治療を受けたけれど、あれはおそらく自己の治癒能力を補助するような力だ―、と思う。 _5_有希 多分、これは私の中にある邪神の力のせいだ。/ _5_有希 元々、接近戦を避けはしないが、自分の耐久力など普通のニンゲンとさほど違いはない。 _5_有希 魔獣戦において邪力の急所を突くために接近戦を行うが、本来なら空間転移で攻撃を受けようもない距離から封殺するのが自らのスタイルだと心得てはいる _5_有希 あるいは、一撃離脱戦法。 _5_有希 どちらにしろ、まともに攻撃を受けることを許容出来る身体でないことは自分が一番良く知っている _5_有希 「『あの時』は何か嬉々として攻撃を受けに行ってた記憶が朧げにあるのよね・・・」 _5_有希 邪神に精神を支配されていた時。 身体を粉々にされても元の状態へと戻っていた『自分』 _5_有希 客観的な記憶があるのが不可思議だが、どうもそれは事実な気がする。 _5_有希 「―まぁ、悩んだって仕方ない、って結論に落ち着くんだけど・・・流石にわからないまま放っておき過ぎかしら」 _5_有希 ウィスキーを飲み干し、もう一杯、と注文する/ _5_有希 肉体年齢も本来自分が歳を取るスピードより遥かに引き上げられ、以前の怪我も無い _5_有希 あまり想像したくはないが、もう本来の自分の身体は無く、邪神に捏ね上げられた身体であるから _5_有希 邪神を祓うようなことが仮に出来たとしても、それは自分の死を招くようなことになりかねない _5_有希 ―そんな想定をしたからといって、どうにもならない。 _5_有希 いつまで無事に戦いを続けられる? なんて想定は、この戦いに身を投じた時から無意味と断じたはずだ。 _5_有希 いつもどおり、前向きに考えよう。 この力を自分から切り離すことのリスクが高いなら、うまくコントロールする術を探るべきだ _5_有希 「まだまだ一人で調べてみてもいいけど・・・魔獣戦は待ってくれないからなぁ。」 _5_有希 「ちょっと仲間を頼ろうかな」 _5_有希 「―と、言ってもなぁ、どのへんに声掛けようかしら。」「見栄張るわけじゃないけど、あんまり大々的に言いまわって、仲間として不信感持たれてもなぁ」 _5_有希 ・・・まぁ、私より余程大変そうな子が多いから、暫く保留かな― _5_有希 と、そんなことを考えながら _5_有希 グラスを返し、席を立つ。「・・・いつもありがとう。また来るわ」 _5_有希 その場から消え去る/